トロピカル墓場

好きなものは好きだからしょうがない!!

まだ透明な俺らの春にだんだん色のせていきます


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川越ボーイズ・シングは変なアニメだ。

立てこもりに巻き込まれたら迷惑系Youtuberが居合わせて現場に出前を注文しまくったり、ライバル校の曲がマキタスポーツが作詞した「醤油を煮しめたようなドブの底から空を見上げちまった コンビニに公共料金を払いに来ちまった」という歌詞だったりする。

でも、歌のパワーを信じているし、歌のパワーで人が変わるアニメだ。

先週放送された9話が特にそうだったのと、まだ視聴できていないけど10話もそういう回だったようだし、

思い返せば1話で3人が「On the Set」を歌った時からずっとそうだった。

そう考えるようになったのは、作品のプロデューサー・YUKI KANESAKAさんのインタビューで、

完璧にすることって、現代の社会では比較的簡単なことだと思うんです。だけど、そこに非完璧なものを残すことって、すごく繊細で大切な作業だと思っていて。「ピッチは完璧じゃないけれど、こっちのテイクのほうが惹かれるよね」とか、そういった感覚を大切に制作していきました。

と語られていて、その後に9話を見たら、見え方が大きく変わったからだ。

9話は、自称父親がIT系の社長で、金持ちであることを鼻にかけていた、目立ちたがりの「IT」が、実は父親は炎上系Youtuberだと発覚、自宅が視聴者に特定されて凸られるようになってまともな生活が送れなくなってしまい、夜逃げすることになるのをクワイア部で引き留めようとするという回だった。立てこもり現場に出前を注文しまくっていた8話から急にシリアスになるし、作画(武内宣之さん!)が異常によく、それも含めて「変だな~」と思っていたんだけど、YUKI KANESAKAさんの言葉がまなざしを変えた。

ITは同じクワイア部の「パーフェクトガイ」の「えいちゃん」を勝手にライバル視していて、どうやったら自分が目立てるのかいつも歌の中で張り合って、入部当初はうまくいっていなかった。本当はギターを弾いたりDTMをするのが好きなようだけど、それを表に出すことはあまりしていない。同じ時期に入部した「オトメ」が、「男らしさ」をモットーとする父親や体育教師に筋トレを強いられてきたけど、本当は歌うことが好きな自分を解放するのを見て、「これが本当の僕だ!」と部員の前で自作の曲を披露する。


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9話では、ITはずっと元気がない。夜逃げをすると父親に言われた当日、校門の前で足を止めていると、顧問の春男に見つかり、半ば無理矢理クワイア部の練習に参加させられる。うまく歌えなかったけど、誰にも何も告げずに最後の時間を過ごして、自宅で荷物を積んだ車に乗ると、忘れ物を届けに来た春男と同じく顧問のリカ先生と鉢合わせる。春男は普段すごく非常識な性格をしているのに、ITの今日の歌声について、いつも通りの表情で優しいアドバイスをする。それを聞いたITは、初めて「もう練習には行けません。引っ越すんで」と告げる。

リカ先生からの連絡を受けて部員が集合してITを引き留めようとするが、父親の「別れは辛えよなあ。でも『さよならだけが人生だ』って誰かが言ってたぞ。仕方ないこともある」という言葉にキレたITは、自ら車を出すよう言って去ってしまう。オトメが車を追いかけるけど、どうしようもない。途方に暮れる部員に春男が「お願い」をする。

車中のITに、春男からテレビ電話がかかってくる。ITへの激励の言葉でいっぱいになった黒板が映り、春男が「お父さん、我々の歌を聴いてください!ITくん、歌おう!」と声をかけ、ITが2話で披露した自作の曲の2番をみんなで歌う。

僕のついてきた嘘が 君とさよならさせる
グッバイより再会までの約束に
ハロー グッバイ 友情はフォーエバ
会いたいよ そういつまでも思いは消えない
友と共にソウルはここに
あり続ける グッドラック

その歌声を耳にしたITは、自分と部員たちが壇上にいるような感覚に陥る。

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ITはみんなと歌声を重ねる。

歌い終えると春男から「ITくんがいないと楽譜に穴が……」とか言葉をかけられるんだけど、部員たちはこれが別れであることをわかっているから、「絶対電話してねー!」「また歌おうな」「また一緒に歌おうね。約束だよ!」と言う。不意にネットワーク状態が不安定になって電話がブツっと切れてしまい、涙が落ちた画面にエラーメッセージが表示される。

「……快人」
「ん」
「俺いい加減NewTuber辞めるわ」
「……まじで?」
「おう」
「働くの!?」
「いやこれからは、Vtuberやる」
「……変わんねえじゃぁん」

歌のパワーで離れていても同じステージの上に立っている感覚を起こせるし、起こしたし、ITにとってはそれが本当の自分が好きだった音楽と作った曲で、というのが、歌のパワーを信じて、立証していて、すごい。

部員たちが歌った「いつかのアイムソーリー2」って、1番は「君の肩から伸びた毛が 僕をどぎまぎさせる」とかいうめちゃくちゃヘンテコな歌詞で、2番もまっすぐすぎてギャグなくらいだけど、それがまさに"「ピッチは完璧じゃないけれど、こっちのテイクのほうが惹かれるよね」とか"の感覚で、めちゃくちゃ泣けてしまう。

……とにかく伝説の回だった。今更すべての回が何倍も魅力的にうつる。もともとすごく楽しみにしていた作品だったのに、今更すごくおもしろく感じる。終わってほしくないな~。


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