トロピカル墓場

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祝アニメ化!華Doll*について語るスレ――アイドルは電気羊の夢を見るか?

この記事は推しコンプレゼン2023 Advent Calendar 2023 3日目の記事です。内容に過去のエントリのサルベージを含みます。

 

はじめに

 いつもお世話になっている相互フォロワー兼サーバーの管理者・夜坂さんが主催する推しコンプレゼンアドベントカレンダーに大変面白そうだと思って参加したものの、世はまさに大コンテンツ時代。時にコンテンツを追い、時にコンテンツに追われる現代のオタクはいったい何をプレゼンし、プレゼンされるべきなのでしょうか?

 夜坂さんとわたしとは、夜坂さんが管理者をしている和風ホラー因習村風Firefishサーバー・皆尽村のユーザーという関係があります。このプレゼンを目にする方もきっと皆尽村経由の方が多いことでしょう。皆尽村は「和風ホラー」「因習村」というテーマだけあって、ユーザーの方々も少しダークな雰囲気のある作品が好きな方が多いような気がしています(主観です)。ダークで、今ホットで、わたしが好きなコンテンツ……

つまり、『華Doll*』なんですね!

 

 

作品について

 いきなりですが、『華Doll*』はアニメ化が決定しています。

原作の「CD(あるいはサブスク含む配信)のボイスドラマ+楽曲」という展開よりハードル低く作品に触れられる機会がそう遠くないうちに訪れるということで、今推しコンテンツとしてプレゼンをするのはかなりホットなタイミングなんじゃないかと思います。

 『華Doll*』(読み・ハナドール)は、飽和状態のアイドル業界で発足した、“人間のポテンシャルを最適化させるために身体に特殊な種子を埋め込む手術を施し、適合ののち「開花」することで完璧なアイドルになりえる”という芸術と医療の融合プロジェクト華人形プロジェクト」を取り巻くドラマを中心としたコンテンツです。

 1stシーズンは、このプロジェクトに参加した6人のアイドル候補生(グループ名・Anthos(読み・アントス))が、1年以内の全員「開花」を条件としたデビューを目指して寮生活を送るストーリーで、5枚のボイスドラマ+楽曲のCDが出ています。

 この作品の好きなところは、現実のアイドルカルチャーまでを射程にしたシナリオのハードさ、そしていわゆる「楽曲派」としても楽しめる楽曲のよさです。

 わたしは、この作品のテーマを勝手に「アイドル・ディストピア」だと思っています。ディストピアオルダス・ハクスリーすばらしい新世界』やジョージ・オーウェル1984年』などSF小説にしばしば登場する社会のことで、辞書的な定義は以下のようです。

近未来を舞台に、目に見えない独裁者の支配・怪物的な官僚システム・性愛のコントロールなどを活用しながら、自由の抑圧という主題を批判的に展開する、シニカルな現実批判がベースになった物語。*1

こうして見ると既に芸能界という題材とディストピアは非常に相性がいいように思いますが、「華人形プロジェクト」の概要は以下です。

華人形プロジェクト】は、『完璧』なアイドルをつくりあげることを目的に、天霧プロダクションが取り組んでいるプロジェクト。
大手医療研究所の協力のもと、脳科学インプラント技術などの医療分野、さらに情報管理・解析などのIT技術など様々な分野の最先端技術を駆使し人間の身体自体にアプローチ。通常は抑制されている脳機能のリミッターを外すことにより、人が本来持つ能力を開放していく。
こうして、リミッターを外した結果、高い身体能力を持ち、観客が求めるものを永遠に100%提供できるような存在となることを目指す。

華人形プロジェクト】では、人体に植物の種状の特殊なカプセルを埋め込む。
“種”は身体に働きかけを行い、その人物の持つ潜在能力を極限まで引き出す。
身体に埋め込まれた“種”にはその人物の記憶や遺伝子が記録されていく。
“種”の成長は、主にその人物の感情に左右される。その人物がアイドルとしての活動を行い自分自身が成長すると共に、
またファンからの声援やプラスの感情をもらう事によって成長する。
“種”は、やがて花を咲かせる。開花すると身体のどこかに花の色の模様が現れる。
“種”は、カプセル状態ではどのような花が咲くか不明である。その人物の体内に馴染んだ時点で、ようやく花の種類が判明する。
“種”を埋め込んだ瞬間、副作用として髪色や瞳の色が変わるなど、花の種類に合わせて見た目が変化することもある。
“種”にはGPS機能もついており、一度プロジェクトに参加した人物は、プロジェクトの管理下で生活することとなる。
参加者はプロダクションに併設された寮で暮らし、毎日、脳波測定、健康診断などが行われる。
これらの健康管理は全て、最新技術を搭載したマスコットアンドロイドPLANTs(プランツ)が行う。

ディストピアのにおいがプンプンするぜッーーッ!!

 作中で「華人形プロジェクト」のもとには、最高のアイドルになることを目指す様々なバックグラウンドを持つキャラクターが集まります。そんな「みんなの夢を叶える技術と叡智のプロジェクト」という面はオプティミスティックでしかなく、実際のストーリーでは、手術を行ったとしても肉体に適合するのか、「開花」できるのかというアイドル候補生たちの不安や焦り、徹底的に管理された生活という非人間的な面が強調されて描かれます。

 非常にわかりやすい要素として、ドラマで描かれる彼らの寮生活は、AIを通じて必要なカロリーや栄養素が一元化してシステム化された毎日の食事が「スープとタブレットみたいなもの」であったり(1巻「Birth」)、「華人形プロジェクト」の裏を暴こうとしたゴシップ記者が消されたり(5巻「For…」)、アイドル候補生たちはプロジェクトに関わる大人たちからは「ドール」と呼ばれまるで人間扱いされていない(4巻「Message」)ところは、すごく「らしい」です。

 でも、『華Doll*』が「アイドル・ディストピア」であるのは要素だけではなく、その世界を批判的に語っている点こそだと思います。

 アイドル候補生たちの「開花」のスピードには個人差がある上、そもそも全員の「開花」は約束されていません。自分より先に「開花」していくメンバーが登場すれば、不安、焦り、悔しさ、嫉妬、コンプレックスなどのネガティブで複雑な感情を抱くのは当然です。共同生活なので、自分の本当の気持ちを出せずに我慢してギスギスしたり、逆に感情のぶつけ合いが起きたりします。

 それでも彼らは自分たちのペースで、コミュニケーションを諦めません。少しずつ言葉を重ね、困難を乗り越えようとします。6人の間でペアっぽくなる相手がいる構成になっていますが、そのペアに留まらず全員でコミュニケーションを重ねます。

神よ、変えることのできるものについて、それを変えるだけの勇気をわれらに与えたまえ。変えることのできないものについては、それを受けいれるだけの冷静さを与えたまえ。*2

という神学者ラインホールド・ニーバーの言葉がありますが、まさに6人の生活には、このセレニティ・プレイヤー的精神性があります。

 1stシリーズの後半である4巻「Message」や5巻「For…」では、アイドル候補生たちが大切だと思うもののために、事務所の指示や世間のバッシング(悪いインターネット)に抵抗して行動を起こす規模が大きくなっていきます。たとえ権威の下にある(アイドルになる)ことしかできなくても医療や科学では彼らはコントロールされないことが描写されます。その勇気や熱は、現実のアイドルカルチャーをも射程にした世界への批判です。

 その上で、『華Doll*』はこのように問うています。

自らの人生と引き換えに「華」を得た少年達。
完璧な物など何一つない世界で、未熟な彼らに与えられた「選択」
彼等の行き着く先とは。

『華Doll*』
それは「人間」か、「人形」か。

オタク語彙でいうと、いわゆる曇らせ的な要素や胃が痛くなるような展開がありますが、最終的には「夜明け」なので、そういうのが大好き!という方には非常にオススメです。

 

キャラクターについて

 1stシーズンおよび作品のメインキャラクターのアイドルを紹介します。重大なネタバレにならない範疇で、公式サイト(事務所が出しているパブリックイメージ)以上の情報を含みます。画像の引用はオフィシャルマナーに則ってこちらこちらから引用しています。(いわゆるサザエさん方式ではない作品なので、引用した画像(アニメビジュアル=1stシーズン)と現在の作中の年齢は異なります)

  • 結城 眞紘(ゆうき まひろ)

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赤担当。Anthosのセンター。まじめで一生懸命で、常にポジティブであろうと心がけている。自死遺族。

 

  • 如月 薫(きさらぎ かおる)

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青担当。メンバーにも敬語で接する物腰柔らかで丁寧な性格。世間知らずで天然な一面もある。

 

  • 影河 凌駕(かげかわ りょうが)

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緑担当。最年長。時にしっかり者だったり時におちゃらけていたりと余裕がある兄貴分。「華人形プロジェクト」に疑念を抱いている。

 

  • 清瀬 陽汰(きよせ はるた)

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オレンジ担当。最年少。まっすぐな性格で自分に厳しい努力家だが、向こう見ずに突っ走りがちな一面もある。

 

  • チセ

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黄色担当。マイペースで天真爛漫。メンタルの上下が激しい。センスと感性が抜群。

 

  • 灯堂 理人(とうどう りひと)

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紫担当。毒舌でクール。言葉がきつく他メンバーと衝突しがち。ツンデレ

 

楽曲について

 いわゆる「楽曲派」としても楽しめる、と前述しましたが、そもそも「楽曲派」とは、本来の意味とは異なりますが、“アイドルの特典会やパフォーマンスではなく楽曲に注目し、コアな音楽性を持つものを嗜好する聴き手”のことを言います。ここでは、本来キャラクターソングである彼らの楽曲が、ドラマやキャラクターというバックグラウンドの情報がない状態で聴いても楽曲そのもののよさを楽しめるという意味で使っています。

 フルMVも公開されているA面の曲を紹介します(楽曲もボイスドラマと同じCDで、CD、配信、サブスク展開しています!)。

  • BIRTH

作詞:葉月ゆら、作曲:森慎太郎、編曲:森慎太郎・fazerock、ボーカルディレクション:zakbee

BIRTH

BIRTH

 ダンサブルで低音のアタックが強くてキャッチーで、まさに「はじまり」にふさわしい主題歌感と、わくわくした想像力で体が動かされます。

 

  • Juliet

作詞・作曲:INN、編曲:fazerock、ボーカルディレクション:zakbee

Juliet

Juliet

  • provided courtesy of iTunes

 繊細で美麗でやわらかな雰囲気の中にBメロからの展開と三連符が胸を打つようなJuke/Footwork。

 

  • S.T.O.P

作詞・作曲:中野晶弘、編曲:fazerock、ボーカルディレクション:zakbee

S.T.O.P

S.T.O.P

  • provided courtesy of iTunes

 808のハイハットが鋭く、不穏でハードな音とラップや台詞っぽいボーカルが重なるさまは官能的ですらある。

 

  • Me Against Myself

作詞・作曲:chefoba、編曲:fazerock、ボーカルディレクション:zakbee

Me Against Myself

Me Against Myself

  • provided courtesy of iTunes

 内向的な踊り、ラブソングにも取れる歌詞が切ないレゲトン

 

  • I know,Who I am

作詞・作曲・編曲:Leeep、ボーカルディレクション:zakbee

I know,Who I am

I know,Who I am

  • provided courtesy of iTunes

 トラックもボーカルも世界に立ち向かうような力強さのある曲。

 楽曲だけ楽しみ、作中の彼らのファンと同じ楽しみ方をする、というのもおもしろいと思います!

 

原作リンク

 現在原作は配信やサブスクでも聞くことができます。

公式YouTubeのリンクはこちら

各種サブスクのリンクは以下です。

album.link

ちょっと、悪い夢を見てただけだから。多分……

 「華人形プロジェクト」のオーディションに合格し、手術を受けたアイドル候補生6人の共同生活がスタートする。一足先に入寮していた眞紘は、個性豊かなメンバーが寮にやってくるのを待つ。

album.link

ねえ、リットーリットーは、どうして僕がそんなに怖いの?

 「開花」した1人目のメンバーの誕生に5人は興味津々。寮ではレッスン漬けの生活が始まり、6人には少しずつ差が生まれていた。

album.link

才能あって、金持ちで、ツテも、コネも、帰る場所もある奴らにはわかんねえよ

 アルバムのリリースイベントを開催することになったAnthos。ファンの前でパフォーマンスが披露できる機会に喜びを見せる6人だが、ライブの後に開かれた記者会見で――。

album.link

今の全部嘘なんだ。本当はそうじゃなくて……、ずるい、どうして僕だけ、なんでいつも、僕ばっかりって、言いそうになったから、だから……

 事務所から全員の外出許可が出され、オフの1日を充実して過ごすAnthos。しかし、街頭ビジョンに自分たちのゴシップニュースが流れていて――。

album.link

ねえ、今からでも遅くないから、やっぱり泣こうよ

 「開花」していない最後の1人であることから焦りとプレッシャーを抱え、レコーディングで失敗してしまったあるメンバー。事務所からAnthosを辞めるよう遠回しに通達され、寮を出ていこうと準備をしている時に凌駕が部屋にやってきて――。

 

おわりに

 『華Doll*』は、現在2ndシーズン、そして活動休止中の「華人形プロジェクト」の先輩ユニット・Loulou*di(読み・ルルディ)のドラマと楽曲が展開されていて、アニメの原作となる1stシーズンの先もストーリーが続いていきます。もしこのプレゼンで興味を持ったら、アニメ情報をチェックしてみたり、楽曲やドラマを聴いてみたり、他のメディアミックスからでも作品に触れてみたりしてくださったら嬉しいです。

 この花が、いつかあなたの生活を彩ることがありますように。

 

関連リンク

『華Doll*』天霧プロダクションOfficial Site

 『華Doll*』公式X

*1:

kotobank.jp

*2:大木英夫『終末論的考察』中央公論社、1970年