個人のアーティスト活動の曲もキャラクターソングもどんどんアップデートされていると感じたのが個人的な2022年の印象でした。アップデートというのは洗練されていくという意味も含みますが、とにかく新陳代謝がめまぐるしかったと思います(男性声優音楽シーンにかかわらないと思いますが)。「キャラソンはオワコン」みたいなツイートがバズったりもしました。非アニソンシーンを含むあらゆる場所で活動するトラックメイカーによる提供、2.5次元俳優、アニソンアーティストの声優化もどんどんデフォルトになっていった。そういう中で、自分が興味のある「好きな(男性)声優楽曲」が輪郭を帯びたような気がしています。自覚するにあたって、過去のエントリでもたびたび引用していますが、強く影響を受けたブログを紹介します。
bluebluerbluest.hatenablog.com
強く共感します。
- 声優という生き方が、音楽ではどのように表現されるか
- 「声優であること」が楽曲そのものにもたらすもの
自分の思う「声優楽曲のおもしろさ」の根底にこれらがあると、改めて考えさせられた1年でした。
加えてこの1年で自分が強く関心を抱いたことは、声への加工表現です。2021年、声優楽曲以外でよく聴いたアルバムがKabanaguさんの『泳ぐ真似』、NTsKiさんの『Orca』でした。
それぞれKabanaguさんはプリズマイザーによって声にデジタルで重層的なコーラスを付加し、NTsKiさんは吐息すら一要素に、ASMR的な感覚をもたらしています。声を加工することは生の表現を殺すことではなく、むしろ新たな感性に到達可能な手法であるという感覚、およびそのおもしろさを確認できたのは、2作品をはじめuku kasaiさん「眩しい、眩しい!!」などによる影響が大きいです。
そして2022年、その感覚を声優が関わっている作品にも見つけることができたと感じたのが、自分の声優楽曲への興味が形づくられたと確信したきっかけです。
これらの作品を「声を加工することは生の表現を殺すことではなく、むしろ新たな感性に到達可能な手法である」という感覚に当てはめるなら、加工によって生の声を超越した先にあるイメージとは、音楽の新たな感性?声以上の「雰囲気」で表現されるキャラクター像?
今年の勝手に楽曲大賞はそういう視点も持ちつつとにかく好きな曲も選んだり、心がふたつある状態で考えました。元ネタにのっとって順位づけしてありますが、あまり関係ないです。あとわたしはアイドルマスターのオタクです。
拙いですが、どうぞ!
- ルール
- 12位 No Man Is an Island
- 11位 埋み火
- 10位 翡翠色のロゼアモール
- 9位 Hundreds Color
- 8位 EXPOSING US
- 7位 乱乱乱
- 6位 +-×÷
- 5位 Inner Dignity
- 4位 Umbilical Lover
- 3位 雪解
- 2位 藍の反証
- 1位 群青
ルール
・2021年12月~2022年11月に発表された男性声優の楽曲が対象
・1枚のアルバムから選べるのは1曲だけ
・ただし、これは!と思う1枚のみ2曲選んでもいい
12位 No Man Is an Island
歌:羽多野渉
作詞:斉藤壮馬、作曲・編曲:石川智久
声優の羽多野渉さんに、声優の斉藤壮馬さんとTECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUNDの石川智久さんが提供しています(めちゃくちゃ好きな人たちがめちゃくちゃ好きな曲を作っててワロタ)。斉藤壮馬さんらしいポエティックな歌詞と繊細なサウンドに羽多野さんの声、ヒーリングっぽいニュアンスがすごく好きです。ささやくようなコーラスも、きっととびきりセクシーにだって出来てしまうはずなのに清潔で、ニュアンス1つひとつが細やかで丁寧。表現力が改めて感じられる曲だと思いました。
歌詞を提供した斉藤壮馬さんや、その他西山宏太朗さんなど、近年のニューエイジ男性声優さんのアーティスト活動はかなり本人にキャラクタライズされておりめざましいのですが、男性声優の個人アーティスト活動といえばロックしかないみたいな(体感です)時期から活動されていた羽多野さんが、アーティスト活動10周年を迎える前にオブスキュアなアルバムを出すことも惹かれるポイントでした。
11位 埋み火
歌:斉藤壮馬
高校生の頃、夜、布団の中で曖昧になりながらWALKMANで聴いていたシューゲイザーの音を思い出しました。ART-SCHOOLやBloc Partyなど、その他様々なバンドサウンドからの影響を公言している彼自身の作詞・作曲です。聴き手の個人的な体験すら幻視させてしまえるほどのサウンドを自分で手掛けているというのはすごい。斉藤壮馬さんのアーティスト活動はやはり強く評価したいです。これからの活躍も楽しみです。
10位 翡翠色のロゼアモール
歌:いっくん(坂上晶)
作詞・作曲・編曲:Somari
アンティークなサウンドに破壊的な音と声が重ねられていて、普段ボカロを使った制作が多いSomariさんの言葉のあてはめ方と、声優さんが歌唱するシナジーが耳に独特の余韻をもたらす感じがします。エッジィな音に対して、陶酔するような歌い方や思わせぶりな台詞という情報量の多さが声優楽曲!という感じです。
9位 Hundreds Color
歌:花園百々人(宮﨑雅也)
作詞:松井洋平、作曲:大熊淳生(Arte Refact)、編曲:河合泰志(Arte Refact)
ソーシャルゲーム『アイドルマスターSideM』は基本的にアイドルユニット単位でCD展開していますが、この曲はキャラクターがソロで歌唱しているキャラクターソングです。2022年輪をかけて良曲展開が止まらないSideMですが、やはりこの曲の衝撃は大きかったので選びました。アイドル=encourageする存在、な楽曲をいつも発表してきたSideMが静謐から世界のすべてを破壊するような音でキャラに迫ること、正直ビビりました。このアルバムは本当にいい!
8位 EXPOSING US
歌:ISADORA(田丸篤志、葉山翔太、ランズベリー・アーサー)
作詞:真崎エリカ、作曲:fu_mou、編曲:宇佐美祐二
男性声優さんの楽曲で2022年にバイレファンキをやっていたのってこの曲くらいなんじゃないでしょうか!多くの低音担当がいる3人組ってだいたい低音担当が支えることでまとまってると思うのですが、ランズベリー・アーサーさんの声は飛び道具のように使われており、キャラソンのおもしろさだと感じます。
7位 乱乱乱
作詞:Daisuke Iwasaki、作曲:家原正樹・Yu-ki Kokubo・YHANAEL、編曲:家原正樹
特にアイドルものの曲は三次元アイドルとの差別化が図られなくなり、Rejetが展開する架空のアイドル事務所『ピタゴラスプロダクション』シリーズでも梶原岳人さんらを引っ提げ新ユニットが追加発表され、どんどん洗練されていったという印象なのですが、やっぱり岩Dがやってくれました(ジェバンニ?)。サウンドはTrapっぽくてちゃんとかっこいいのにとにかくRejetの露悪さ(それがいい!/引用した『乙女ゲーというサバルタン』に詳しい)が非常に際立った曲だと思います。
「武士道とは死ぬことと見つけたり?」「来迎なんて信じないさ」「空にはハレとケ」……なにかを間違えた椎名林檎のような意匠が凝らされた歌詞と冷笑するような吐息混じりの声、「葉隠もの」な湿っぽさと、ヒロインに向けているようで同性愛的なニュアンスにずらすことも可能な表現の妙な合致が謎の不謹慎セクシーさを生み出しています。「かっこんだ冷や飯の数も キミを守る為にある」とか、冷や飯かっこまないでくれという感じです。
Rejet作品では他に『CARNELIAN BLOOD』でのランズベリー・アーサーさんの歌唱のすばらしさ、『ディアヴォ』モモチの悪夢のような「夜香花」などたくさん好きな曲がありましたが、Rejet枠としてはこの曲を選びたいと思いました。
6位 +-×÷
作詞:辻村有記、作曲・編曲:辻村有記、伊藤賢
今年、あからさまに元ネタを感じる曲は他にもありましたが*1一聴してわかるようにピチカート・ファイヴ「大都会交響楽」です。パロディに文脈がきちんと存在しています。(STATION IDOL LATCH!!は“山手線の駅員が業務時間を終えると=改札外で、アイドルをする”という、山手線の各駅の擬人化+アイドルものの作品で、都会のめまぐるしさ、人類の夢の象徴である電車と「大都会交響楽」のイメージの重なりがすばらしい)電車関連のメタファー、および人生(じんせい/歌唱キャラのユニットは“ひといき”)賛歌のメッセージを感じられる歌詞はキャラソンの機能にとどまりません。
菊池幸利さんの浮世離れしたような声がこの曲のイメージを更によくしていると感じます。甘くてセクシーなのに少年みたいな無邪気さも感じられて不思議。人間っぽくない感じが、曲に表現された生活像をふわりと浮き上がらせるような感じがする。
5位 Inner Dignity
作詞:真崎エリカ、作曲:BNSI(濱本理央)、編曲:中土智博
あの「Alice or Guilty」*2がSideMで帰ってきた(泣)(泣)(泣)台詞パートまで完璧にアリギルをなぞりつつ、泥臭い歌詞はたしかにSideMでの彼らの物語*3を感じる。駆り立てられるようなリズム、胸を震わせるギター、感情を開放するというより胸の内がどうしても止められずにほとばしるような、仄暗いけど前しか向けない感じはアイドルマスター全体のテーマソング「THE IDOLM@STER」に通ずるムード。アイマスのアンセムたる風格があると思います!
4位 Umbilical Lover
歌:Anthos*(濱野大輝、堀江瞬、伊東健人、駒田航、土岐隼一、山下誠一郎、増田俊樹)
作詞:坂井竜二、作曲:zakbee、KAN TAKAHIKO、編曲:KAN TAKAHIKO
攻撃的なトラックにアイドル人生への意志の強さを鋭く乗せた前作のA面「Lay it down」とは打って変わり、声の表現力が曲を先導するラブソング。逆クオンタイズというか、ずらされてゆったりと歌われるメロディがAメロから印象的。
2番の「この世界じゃないどこか ずっと前に繋がってた」から始まるパートは、声からそれぞれ引き裂かれるような想いの強さを感じ、鬼気迫るほどです。そこから波が引くようになる「壊れながら生きる 生きながら壊れる」は本当に持っていかれそうになる。「君への/愛だけを残し/て」という歌詞のフレーズを優先しない歌割も耳に少しの違和感を残して、胸に引っかき傷の痛みをもたらします。
3位 雪解
歌:湊大瀬(日向朔公)
作詞・作曲・編曲:Ryu(Ryu Matsuyama by the courtesy of VAP Inc.)
2021年下半期から2022年はカリスマがなにかと賑わせた年でした。EVIL LINE RECORDSにバックアップされた、世界のワールドワイドな童謡(?)をエディットした7人のカリスマたちによる曲がアニソン派!でオーイシマサヨシさんの推薦を受けたことが記憶に新しいですが、キャラ1人ひとりに迫ったカリスマブレイク曲もゴージャスでよかった。
感情があまり入っていない・言葉をぽつぽつと置くような歌声*4は、声優という役割とは対極にあるように思えますが、実際ミニマルな音と構成はまったく過不足を感じることなく、「聞こえる?消えてゆく僕の声は」に重なって洪水のように押し寄せる様々な「ねえ 聞こえる?」の声は痛切でありながら最後に残るのはボーカル同様に感情を感じさせない呟きの短い余韻です。
2位 藍の反証
作詞・作曲・編曲:Δ
声優・キャラクターとして最も揺らがないものであるはずの声は、子音単位までチョップドされ、何重にも重ねられることでぼやけ、キャラクターのモチーフである水面のイメージと重なります。ブレイク部分からグラデーションがかかっていくように和楽器の音色に変遷していくところは美しいとしか言いようがありません。ビートによって保たれる緊張感と、そこから解放され耳元で硬い水の音が鳴るラストの展開は、テン年代エクスペリメンタルからASMR体験まで通じるようなムードがあると思います。
1位 群青
作詞:東妻リョウ、作曲・編曲:小野貴光
このブログやTwitterで何度も話題に出しているのでだいたいの気持ちは初出ではないのですが、最初のプリズマイザーが大好きです。頭サビのみ加工が施されているのは、歌唱キャラクター・小宮山嵐の「イップスで歌えなくなったが、本編を通してふたたびマイクの前に立てるようになる」というドラマと重なっています。「絶えまない 群青を 止まらない 衝動を この胸は覚えてる」という痛切な歌詞と合わせて苦しくなるほどです。まさに群青のような、青い景色が目の前に広がるような爽やかさ。千葉翔也さんの歌声の生っぽさがすごくいい!
声以上の聴覚体験でキャラクターに接近できるという可能性、声優という職業のブレイクスルーに繋がる可能性を感じられる曲です!
たくさん好きな曲がある中で12曲のマイベストとなりました。2023年も音楽を聴きたいです。ありがとうございました(終)