トロピカル墓場

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獣愛ブースト音楽劇「Lamento -BEYOND THE VOID-」 #ラメステ 感想

猫耳ハプニングが起きてる
この世のどこかで
猫耳ハプニングが起きてる
あの世のどこかで

HAPPENING

HAPPENING

※舞台本編とは関係ありません

 

 原作ファンだったりプレイしたりして臨んだキラルステージ過去作とは異なり原作・俳優・スタッフのいずれにもファンや目当てとして該当しない状態で公演に行きました。スプステでキラステにBLと演劇の臨界的な想像力を見てしまったから、こうして品川ステラボールに来ている。

 キャスティングが今までのキラステからすると新鮮に感じて、というのも、雰囲気わかるー!というのもある一方、わかるかつ意外性を感じる、というのもあった。制作由来だったりするのだろうか……(キラステ、毎回制作が変わっている件)。個人的には自分が末満健一さんのファンをしているため、末満健一さんと仕事をしたことのある俳優さんたちがメインキャラを占めていることが嬉しかった。

 観る前からそういった信頼を感じて期待していた俳優さんたちは、演技の粒が揃っている感じがして観ていてストーリーにすごく没入することができた!自分は原作未プレイのため原作っぽいという反応はできないのだが、その上でなお「台詞を言っている」というより「そこにいる」を感じさせてすごかった。

 OPとEDが原作OPのアレンジというのがアツい!

 賛牙としての才能が目覚めた歌唱シーンによって、一人で生きていたコノエが作中世界(賛牙と闘牙という攻めとの最小で最大の関係、戦いによってリークスに挑んでいくというストーリー)および音楽劇というラメステの構造そのものと関係していき、作品が動き出していくのを、肌で、リアルタイムで感じていくという経験は何物にも代えがたいです。

 キラステ作品は、自分の心と身体を持ちながらも他者や自分の意思が介在しない現象によってコントロールされてしまう主人公が、「普通」から外れることで加害を受けながらも自己の「生」の在り方を選びとる話だと思っているのですが、ラメステにおいては攻め3人もそれをなぞりつつ、コノエと攻めキャラで自分を乗り越えて不自由かもしれなくても未来・光の方へ手を伸ばす、という不動で永遠なるテーマ性が強いと思いました。ここらへんの感想はED曲「光満つ祝福の歌」がすべて歌っているのですが……。(そういう意味でわかりやすい舞台だったとも思います)

 各ルートと各キャラクター・俳優さんの感想を続けます。

 

 各ルートの初日をそれぞれ観て、瀬戸祐介さん演じるバルドがすごい、ということをしみじみと感じていた。コノエというか、前嶋曜さんを受け止める力がすごい。

 初日を観劇して一番印象に残り、かつぐっときて、今でもずっと心に残っているのが最終決戦へ向かおうとしているコノエをバルドが抱きしめて引き留めようとするシーンだった。色々なことを諦めたふりをして、特に未練や執着というものから目を逸らして生きているバルドが、初めて何かを諦めたくない、コノエを離したくないという姿を見せるのがどうしようもなく人間くさくて大好きになった。抱きしめられながら「死にに行くんじゃない。乗り越えたいんだ」「死ぬためじゃないだろ。生きるためだろ」という、淡々とした中に固く強く響く決意を滲ませるコノエのトーンも胸にくる。出会ったばかりの頃(しっぽを梳かすシーン)の「ひねくれ者」を再び、キス、そして「俺はまだ……生きてる」から戦闘BGMと悪魔たちの台詞で緊張感が続き、戦闘服を着たバルドが登場するまで腰を抜かすくらいかっこいい。

 3ルート全体を通して思ったことは、途中で攻めと受けの権力勾配がめちゃくちゃになるのが好きということで、バルドルートでは、距離の縮め方が激しくておせっかいなオヤジのバルドのペースにコノエが巻き込まれていたのに、いつの間にかバルドがコノエを追いかけるようになっていたという構図がそれだと思った。

 色々なことを諦めているのらりくらりとしたさまを隠さないバルドにコノエが日々の生活の尊さを説くシーン、

「きっと、あんたと出会えてよかったって、思えるやつもいるだろうし」
「あんたもそう思うか」

この食い気味な「あんたもそう思うか」の真剣さに、「えっ」と顔を上げるコノエと同じくらい、ハッとさせられます。

 攻め3人は全員自分自身の闇を嫌っていますが、バルドの「嫌い」が一番ぐさりと刺さりました。瀬戸祐介さんの演技には「キャラクターの台詞」以上にこちらを刺してくる、人間の言葉の重みがある。その嫌っていた自分が求めて悪魔にもすがった「強さ」を唾棄する、力強さ。

 発情期シーンの「いいんだな?」とか「困ったガキだな」の言い方が、日によって吐息っぽく、色っぽくてよかった。あの片手間感というか、本気の気持ちを隠しつつ気怠いような大人っぽいセックスの匂いたつような表現力。

 これらの真摯な演技に加え、瀬戸祐介さんのアドリブ力によって毎公演日替わり要素が楽しみになっていました。本当に瀬戸祐介さんにかんしては舌を巻きっぱなしな日々でした……。応援していてすごく楽しそうな俳優さんだな~と思った!

 

  • アサトルート

 一番リップ音立ってた。

 アサトルートの攻めと受けの権力勾配がめちゃくちゃになる好きシーンは、「俺は、お前のものになりたい」です。

 突然だが、アサトルートを観て思い出したてらまっと氏のインタビュー記事を引用する。

てらまっと 近代人はみんな多かれ少なかれ故郷から追放されている故郷喪失者であり、終わりのないエグザイルの途上にあるんだ、みたいな話がよくあるわけですが、〔…〕自分が故郷を失っても、遠く離れた場所にいても誰も知っている人がいなくても、何度も聴いた音楽はいつだって口ずさむことができるんです。そうやって孤独な人間に最後まで寄り添い得るっていうのが、やっぱり音楽の良いところなんですよ。
(「インタビュー 日常系アニメ批評愛好家が聴くキャラソン」私的音楽同好会『声色 Vol.01 特集:キャラクターソング』2023年、p.45)

わたしは故郷喪失者としてのアサトとコノエにエンパシーを感じてしまった。リークスに言わせれば「傷の舐め合い」かもしれない、故郷を追われ、自分として生きる時間も、拠り所にしてきた父への憎しみも失われ、どうすればいいかわからなくなったアサトに、母からの愛が残されていることをコノエが伝え、そしてアサトが愛を返すこと。そんな彼らを繋ぐものが、アサトが母から聞かされた歌(作中に登場する「音楽」)とそれをアレンジした劇中歌「歩む道」(キャラクターの自己表現としての「音楽」)であるのが、音楽劇であるこの作品をメタ的に横断しながら音楽の意味を体現していて、とても好きだと思いました。

 

  • ライルート

 加藤将さんがCV森川智之のキャラを!?と思い、実際力んだ感じには少し慣れが必要だったのですが、激情型ライはとても癖になりました。

「お前、本当に馬鹿な猫だな。おまけに愚鈍だ」

 フラウドに付け込まれるのもそうですが、攻め3人の持つ闇の中で一番「病み」感があるのが好きで、悪夢に魘されたり狂気を引きずり出されそうになったりして荒い息をつくシーンでは笑顔に……。外見も態度も色々な意味での力も大きく、かつ、大きく見せているのがうまいのに、隙がある感じが(もしかしたら原作とは違う印象なのかもしれませんが)よい。

 2幕でコノエに忠告するバルドの「そのままの意味だー↑よ」とか、「気をつけろよ(ん)」みたいなゆる~い言い方が好きでした。

 アサトルートで初めて同士か確かめ合うのもそうでしたが、娼館で何もしていないことを強調して攻めの処女性?(童貞性?)を確認するのがあの頃のBL典型だ~と思いました。セックスシーンなどコノエと触れ合う時に手が大きくて体格差を感じてウオ~となった。

 ライルートでの攻めと受けの権力勾配がめちゃくちゃになる好きシーンは、コノエの手を左胸に導いて「ここを貫け」と伝えるシーン。弱さを見せるライと隣で踏ん張ろうとするコノエの感情が溢れまくった叫びのやり取り。リークスがコノエを乗っ取った状態でライにキスするシーンも大好きです!

 劇中歌では「その瞳に」が好きです。「歌……歌おうか?」のシークェンスが、ずるいけど好き……。ぐずぐずになりながら自分の強さの理由とその裏にある自己嫌悪を吐露するライを小さな身体で包み込むコノエ、ライの本当に弱弱しい「嫌じゃないのか?」、お互いが嫌っている身体へ優しく自分を残そうとする行為という怒涛の流れが美しい。

 狂気に囚われたライを呼ぶコノエの「ライ!」が本当に痛切で好きです……。

 

  • 各キャラクター・俳優さんについて

 カガリは本当にかっこよかった!BL表象における女性が好きなので、吉良らしい頑なさと鋭さと強さを言葉の端々から滲ませる発声が大好きです。淺場万矢さんが兼ね役で演じるマナも、勝気なトーンと「あらぁ~ん?♡」な、しなを作った感じがめちゃくちゃよかったです。

 トキノはコノエと額を合わせたりお尻で小突きあう仕草がいちいちかわいくて登場するとシリアスな展開の中の癒しになっていました。また、大千秋楽の深澤大河さんの「コノエの旅が無事に終わり、幸せになりました」という挨拶がすごく好きでした。気持ちは終わってほしくないけど、舞台は終わりがあるから美しい。

 キルとウルは、特にウルの不気味さが好き!!!でした。キルの戦闘準備中に見せるガラの悪そうな雰囲気と、ねっとりとした品のある(?)ウルの同じなようで違う表情も見せるコントラストが好き。また、戦闘シーンでこの曲がかかるタイミングがめちゃめちゃ気持ちよかった。

賛牙と闘牙

賛牙と闘牙

  • provided courtesy of iTunes

 悪魔、マジで最高!!!元々原作のビジュアルが別ベクトルで最高なんですけど、あのビジュアルが三次元化して、芝居がかった身振りをつけて低音で歌うOPから虜でした。

 ラゼルは声がいい……!低音でよく通る声をしているので誘惑する「感じるか?」も、コノエが提案を受け入れた後の「よっしゃあ」もデカく、他の悪魔たちが各ルートで見せた活躍に相当するものがなくともラゼルの存在は常に強く感じていました。そして稽古場生配信や他の俳優さんたちのお話から出てくる君沢ユウキさんの(いいエピソードによる)存在感がすごく、君沢ユウキさん、いや、君沢ユウキおにいさまと呼びたくなるような気持ちに。(萌え妹しか許されない呼び方のため、NO)

毎回いい声で「アップロードしてくれよな!」と言っていて、そういう(官公庁とかの)キャラみたいで面白かった。

 カルツも声がいい……!わたしがフィクションで最も好きなシチュエーション、"「生きろ」と託す"もしてくれた。そしてラメステで一番ぞくぞくしてたまらなくなるシーンが、カルツの台詞にあります。

「雪か」
「確かに、そろそろ降りそうだ」

二つの月の歌の歌詞を解くシーンで、この台詞に次いでMが入ってくるのが、糸を張ったような、光線がパァーッと進んでいくような、そんな心地よい推進力を感じてたまらなくなります。

 フラウドは、一番人間っぽくなくてパキパキでかっこいい。村松洸希さんの体格、すごすぎ……!?あのビジュアルで「猫ちゃん♡」「つれないなァ♡」という語尾に♡な感じのトーンなのがたまらなく胡散臭くて最高だし、ライとの関係に萌えてしまった。フラウドENDがめちゃめちゃ気になっている……。

 ヴェルグはまずビジュアルへの寄せ方は一番すごい!ご本人も身体づくりをしたというお話を色々なところでされていて( #悪魔筋トレ部)、都度本当にありがとうございましたとなる。普段のチャラついた喋り方とバルドを誘惑するモノローグ「苦しいだろ?疲れただろ?こっちへ来い。楽になるぞ……」の落ち着いた色っぽいトーンのギャップがすごく好き。また、岩田知樹さんが振り返りラジオでお話されていたことが、自分が原作のある舞台に面白さを感じて観劇をしている理由とまったく重なってドデカ感情になってしまった。

 舞台を観て最初にすごい!と思った演技はフィリだった。くるくる変わる道化の表情と声のトーンとするりとした身のこなしをスムースにこなすきたつとむさんの演技、歌うシーンで仰け反りながらする絶叫がものすごくてずっと感心していた。キラステはサブキャラの演技がしっかりと演劇のにおいをまとっているところが好きで、きたつとむさんは今回その筆頭でした。個人的に少しガサッとした声がものすごく好みです……!

 リークスを演じる松井勇歩さんは、わたしが演劇作品で一番と言っていいほど好きな「羽生蓮太郎」の主演を務めていらして、「羽生蓮太郎」ないし劇団Patch作品での泥くささを今でも見ようとしてしまうんですけど、翻って2.5次元作品ではロイヤルな役も演じていらっしゃって、未だそのギャップに悶えているという個人的な思い入れを持った方です。今回も「またロイヤルの系譜……!」と悶えることになったのですが、一言ひとことの重み、フードを脱いで「虚ろな器」を歌う堂々たる姿、そして思いを吐露するラストのカタルシス、本当によかった。リークスは登場や攻撃の映像演出との噛み合いが見ていて気持ちよかった。

 歌うたい・シュイは、ずっとコノエの旅を見守っていることと狂言回しの役が合致していてよかった。ていうか、キラル作品(キラステになった作品)って傍観者ポジのキャラがいがち……?コノエが賛牙の才能に目覚めたシーンなど、説明台詞ながらそのイヤさをあまり感じさせない絶妙な感情を込めた節回しでよかった。クライマックス、客席まで光が届いて、コノエを導くシュイのシーンはいつも鳥肌が立ちます。

「目を閉じて、光を感じなさい。光を見失ってはいけない!」

 そしてコノエは、キラステ主人公然としていてかっこよくてかわいくて強かった。キラステ恒例ですが、ステージの上で転がされまくりながら台詞を言うのがすごい。正直毎公演安定感を感じたかというとそうではないのですが、そのフレッシュさでキラル作品へ果敢に挑んでいく感じが世界の主人公っぽい。リークスと相対した時の「嘘だ!」の絶望や攻めへの戸惑いのニュアンスと、コノエなりの正義を貫く時のコントラストはすごく鮮烈で心に焼き付いて離れない。

 

 スペシャルカテコは、最初詳細が出た時「Lamentoをファンサ舞台に…!?💢」みたいな気持ちがあったのですが、シリアスな本編から怒涛のハッピーエンドへ、からのいい息抜きになっていてよかったと思いました。加藤将さんの冷やかしの声がデカすぎる。

 原作のテキスト(地の文)をそのまま台詞とするのではなく、演劇の力と観客を信じて取捨選択・表現してほしいという気持ちは、正直、相変わらずでしたが、音楽という要素が加わってキラステの集大成的にアップデートが重ねられたよい舞台作品だったと思っています!演劇LOVE!