はじめに
『テニスの王子様』通称テニプリは、1999年より週刊少年ジャンプに連載を開始した、中学校のテニス部を題材にした漫画シリーズです。という一文だけでは無限のツッコミどころが生まれそうな荒唐無稽な描写、キャラクター、多彩なメディアミックス展開(「テニミュ」こと2.5次元ミュージカル版は4月に20周年を迎えます)はもはやテニプリという現象のようです。
そして、キャラクターソング(キャラソン)とは、「アニメ・ゲームなどのフィクション作品に登場するキャラクターが歌唱している」という体でそのキャラクターを演じる人間が歌唱する楽曲のことです。テニプリでは「バレンタイン・キッス」カバーが話題に上がりがちですが、オリジナル楽曲も含め現在900曲近くのリリースがあります。
↑局所的に超有名なエクササイズソング「やれ! Do it!!」とそのユーロビートRemix「やれ! Do it!!~More Do it!! Ver.~」。
主人公・越前リョーマが所属する青春学園中等部のキャラソンシリーズ『THE BEST OF SEIGAKU PLAYERS』は2002年に発売されました。この『THE BEST OF SEIGAKU PLAYERS』シリーズは、「キャラソン1曲+キャラソンのRemix+オリジナル版のカラオケ+ボイスドラマ」という構成になっています。
今日は、その2002年に発売された海堂薫および菊丸英二のキャラソンの公式Remixが電気グルーヴっぽいという話をさせていただきます。(敬称略)
海堂薫「Chain Reaction」
とはいえ、全体的に意味不明だと思うので該当の楽曲について少しずつ見ていきたいと思います。
外見や無口で少しケンカっ早い一面から誤解を受けがちですが、実際は正義感が強く努力家というキャラクター。彼のキャラソンは、
愛の意味を語る程 僕らは大人になってない
声を出して泣ける程 子供のままじゃいられない
勝ち取ろう! そしてかかげよう!
魂に接吻(くちづけ)をしよう
hey(hey) hey(hey) 解き放て本当(リアル)な自分
change my destiny
という大人びた歌詞がギターロックサウンドに乗せられたものです。
さて、Remix版は下記リンクの試聴をご確認ください。
一体どうしちゃったの?というくらいのサウンド。「I just wonna be a naughty boy, boy, boy, ……」とチョップドされた声が繰り返され、「Nothing's Gonna Change」っぽい音色が聞こえたりしつつリズムマシンが無双、最終的に1.2倍くらい早回しされた念仏のようなシュールなボーカルに置いて行かれそうになります。
菊丸英二「翼になって」
得意とするアクロバティックなプレイに象徴される天才肌で天真爛漫な性格、大石秀一郎と組むダブルスは通称「ゴールデン・ペア」というキャラクターです。彼のキャラソンは、スウィングするような気持ちのいいアコースティック・サウンドにのびのびとした歌声というもの。
そしてRemix版は、
一体どうしちゃったの2(ツー)。「ポポ」を彷彿とさせるような909スネアの連打に、タイトなリズムからわざとずらされるようにやたらディレイがかけられたボーカル。明るく開放的な雰囲気と奇妙さが浮遊感を生み出しています。
電気グルーヴっぽさとは何なのか
一聴した印象を、「電気グルーヴっぽい」と表現してきましたが、一体何が楽曲を電気グルーヴっぽくさせているのでしょうか?双方の音楽的特徴の合致を考えてみます。
- 歌声
キャラソンにおいて、「キャラクターが歌唱すること」は「上手く歌うこと」と必ずしもイコールではありません。キャラクターの設定をいかに歌で表現するか、そして楽曲全体がそれをどう生かして架空のキャラクターに迫るか、ということがキャラソンで測られるものだと思います。
↑菊丸英二役の声優によるバリエーション豊かなキャラソン歌唱の例。
この話は、以降の記述が決してネガティブなものではないと言いたいからなのですが、歌声のなんとも言えないヘタさがシュールな雰囲気を生み出していると思ったのです。海堂薫の少しぶっきらぼうな歌も、菊丸英二の無邪気な歌声も、楽曲全体で彼らを表現した原曲では良さが十二分に発揮されています。ですが、Remix版のキャラクターの文脈を無視したサウンドの中に放り出された途端、彼らの歌声は「キャラクターらしさ」では測られなくなり、どこかコミカルなものとなってしまうのです。
このサウンドと歌声のギャップが電気グルーヴっぽさの1つであると考えます。
- 使用音色の合致
もうボーカルとこれを挙げたら他にないだろというくらい大雑把で大前提ですが、重要です。テニプリ側の使用機材で名前を挙げて予想できるのはTR-909くらいしかないですが(それすらも間違ってるかもしれませんが)その他も1990年代に発売され評価された機材を具体的に使用していることが予測できます。(前述のとおりテニプリ側のCDは2002年発売)
おわりに
テニプリの公式Remixは他キャラクターの曲でもビビッドな爪痕を残していますが、そのリミキサーが誰でどのようなディレクションでおこなわれたのか、CDにはまったく情報が載っていません。もし情報をご存じの方がいらっしゃればぜひ共有してくださったら嬉しいです。が、そこに何もなくても先見の明すぎる楽曲たちを愛しています。
最後に一番好きなテニプリ公式Remixのドラムンベースを紹介して終わります。
ありがとうございました!